三浦俊彦による書評

★ 伯方雪日『誰もわたしを倒せない』(東京創元社)

* 出典:『読売新聞』2004年6月6日掲載

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 プロレス関係者が次々に殺される。動機がとてつもなく特殊なので事件は錯綜。あのテの動機を疑って謎解きを楽しむには、読者はプロレスと格闘技の違いを熟知しておかねばなるまい。いや大丈夫。プロレス・格闘技ファンの刑事がちゃんと登場して、さりげなく教え導いてくれるから。
 真の謎は、主人公らがとり憑かれた「最強」という強迫観念だ。「真の最強とは何か?」という難問に答えんがためのエピローグの強引な収束は、少なくとも格闘技ファンの目にはまことに爽快である。
 巻末、笹川吉晴の解説がまた傑作。ミステリとプロレスは、ともに御都合主義とリアリティのバランスをとるエンタテイメントであること、にもかかわらず本書のようなプロレスミステリがほとんど書かれてこなかったことの指摘は熱っぽい。両ジャンルの薀蓄をちりばめたこの硬質の評論が小説本体と増幅しあい、迫力ある一冊に仕上がっている。

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