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『論理パラドクスー勝ち残り編』への’まえがき’


 この本は、二見書房刊『論理サバイバル−議論力を鍛える108問』(2003年)と『心理パラドクス−錯覚から論理を学ぶ101問』(2004年)の改訂版です。『論理サバイバル』をベ−スとして、そこから「心理系」「錯覚系」の問題を除外し、『心理パラドクス』の中の「言語寄り」「証明寄り」の問題を加えました。議論の力に直結する「リクツ系」の問題を集めたわけです。さらに、旧版に対して読者から寄せられた指摘を本文に取り入れつつ、書き下ろしの新作問題7つ(問05〜11)で補強して、完全な改訂版として生まれ変わりました。

 本書には、感情や先入観による誤りを指摘する問題がいくつか含まれていますが、そういった「人間側の問題」「こちら側の問題」よりも、言語や論証の仕組みそのものに内在する曖昧さや不完全性による「システム側の問題」「あちら側の問題」をメインに構成しました。人間側の問題、つまり意思決定や価値判断にかかわる「心理系」「錯覚系」のパラドクスは、続編でまとめてゆく予定です。

 どちらかというと人間側の問題のほうが、反省のよりどころとなって親しみやすいのですが、制度化された言語システム・論証システムにもし欠陥があるのであれば、自分や他人を責めても仕方ありません。そこでまずは、個人には責任のない、コトバ・リクツ側の問題をある程度知っておくことが必要です。そうすれば、「自分は非論理的なのではないか」と無駄に落ち込むこともなくなるでしょう。そのような観点から、コトバ側の問題の代表格・「嘘つきのパラドクス」の類題を多く集めたのと、通常の計算が有効でなくなる「無限」のパラドクスを重視したのが、本書の特徴になっています。

 本書の問題は、大まかに3種類に分かれます。正解がただ1つに決まる「パズル」。正解が決まるはずなのに1つも見当たらない「パラドクス」。互いに両立しない正解らしきものが複数ある「ジレンマ」。とくに「特定の文の真偽が決まりにくい」系の問題が多く紹介されますが、よく考えれば真偽がどちらかに決まる「パズル」、真でも偽でもないと判明する「パラドクス」、真でも偽でもかまわないと判明する「ジレンマ」 この区別をいちおう心得ておいてください。

 各問題に5段階の難易度表示がありますが、とくに難問と思われるものには★を付けました。哲学的に未解決のパラドクスもあれば、独力で正解するのは難しい種類のパズルもあります。難易度にかかわらず、馴染んでおけば騙されにくくなり、議論をさばくのがうまくなる−そういった良問ぞろいの88題であることは保証いたしましょう。
 アカデミックな論理を、ビジネスや日常生活や試験や未来予測へどのくらい応用できるか、どうぞ試してみてください。
   2017年9月  三浦俊彦