三浦俊彦による書評

ウィリアム・パウンドストーン『パラドックス大全』(青土社)

* 出典:『読売新聞』2004年11月14日掲載


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 正しい前提から正しい推論をたどったはずなのに、結論が非常識。それが「逆説(パラドックス)」だ。水槽の脳、抜き打ち試験、嘘つき、双子地球など、哲学者を悩ませてきた幾十の伝統的例題が精華を競う。
 たまたま本書と同時期に私もパラドックス本を出版したので、ライバル意識満々で熟読した。「なるほど、こう書けばよかった」「あ、こんな解き方もあったっけ」と何度悔しがったことか。とくに「やられた」と感じたのは、最終章「ニューカムの逆説」。ある種のゲームでは全知の予言者は不利になる、という盲点などが語られ、人間知性の不条理がたっぷり味わえる。
 逆に、「これはやや甘いな」と首をかしげた箇所もないではないが(たとえば「無限」を論じた章)、教養書としては十分すぎるクオリティ。抽象思考が苦手な人も、具体的な設定で描かれたパズルを考えるうちに、すんなり哲学入門を果たせることだろう。松浦俊輔訳。

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