三浦俊彦による書評

★ 渡辺恒夫、高石恭子編著『〈私〉という謎』(新曜社)

* 出典:『読売新聞』2004年5月30日掲載

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 「なぜ私はこの人間なのか?」という漠然たる問い。「私は、今、ここにいる!」という唐突な強い自覚。幼児期や思春期に、そうしたプチ狂気に囚われた人は多いだろう。この「自我体験」は、その極端な主観性ゆえに、研究が遅れてきたという。
 臨床例、アンケート調査、体験報告を織り交ぜつつ半ば紙上シンポジウムの形をとったこの論文集は、本来の担当部署である心理学の手法で自我体験に多角的に迫る。この試みが貴重なのは、「自我」「主観性」はこれまで、科学でなく哲学の主題だと思われてきたふしがあるからだ。
 自我体験は論理の素朴な混乱であり、哲学からはさっさと消去されるべき擬似問題にすぎない。しかし心理学から消し去るわけにはいかないだろう。〈私〉があたかも本当の謎として切実な問いに化しがちだという心の現実がある以上、死生観にまで踏み込んだ本書流の新パラダイムの模索が切に求められる。

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