三浦俊彦による書評

★ドゥーガル・ディクソン&ジョン・アダムス『フューチャー・イズ・ワイルド』(ダイヤモンド社)

* 出典:『読売新聞』2004年2月1日掲載


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 これまで愛読してきた多くの昆虫図鑑や怪獣図鑑と並べても、本書はひときわ輝く私の宝物になるだろう。五百万年後から二億年後までの地球の生態系を地域ごとに予測した、コンピュータ原色図版が満載の奇書である。
 大陸移動の確実な計算にもとづいて、気象と生物進化の推移を描いてゆくのだが、去来する極彩色クリーチャーたちの迫力といったら。
 集団で地中を掘り進む鳥。150トンの陸亀。海上に帆を広げる巨大クラゲ。四匹一組で花に擬態し鳥を誘って食う甲虫。女王を中心に社会生活するクモに食糧として飼われる地球最後の哺乳類。葉を生やした環形動物。翼が四枚あるツル。砂漠を跳躍するカタツムリ。森の木々をぬって飛ぶ魚たちを捕食するカーテン状の粘菌。森をのし歩く8トンのイカ。器官や巣や共生の仕組みの説明がまた、やけに詳しい!
 モンスターたちの祖先にあたる現存生物――エリマキトカゲ、チスイコウモリ、ウミウシ、デンキウナギなど――も写真込みで紹介され、生物学と地球物理学の用語が出てくるたびに欄外に解説が付く親身な構成。親身というより露骨にマニアックな酔狂というべきか。
 この酔狂には多くの科学者が、原作のTV番組の段階から協力している。面白いのは、人類滅亡後二億年間、文明を持つ種族が二度と現われないとされていることだ。氷河時代や大量絶滅を経て六大陸が「第二パンゲア」へ合体するまでの間、恐竜時代に逆戻りしたような弱肉強食の自然法則が支配するのみなのである。
 科学的に推論すると、科学文明のような存在は普遍的でも必然でもない一瞬の揺らぎ現象と見なすのが妥当だというのだろうか。そこをもう少し詳しく聞きたかった。いや、これだけの怪物群像をフルカラーで御馳走になっては、真の不満など何一つありはしないのだが。怪獣ファン・生物好き必携の逸品。

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