三浦俊彦による書評

★ ティボール・フィッシャー『コレクター蒐集』(東京創元社)

* 出典:『読売新聞』2003年7月6日掲載


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 語り手は、自由に姿を変えられる知的生物。六千年以上陶器の形をとり続け、自分を所有した歴代コレクターを記憶中に蒐集するメタコレクターである。この鼻は何番目のタイプ、このセックスはタイプいくつと、人間を部位や振舞いで細かく分類している。究極の覗きだ。
 そんな碗が初めて、自分と対話できる骨董鑑定人に出会う。その女鑑定人の家に手癖の悪い女友だちが転がり込み、トラブルが続発。碗は何度も盗まれたり取り返されたりしながら、鑑定人に過去の見聞を語ってゆく。
 奇想小説の常として、奇想よりディテールが素晴らしい。基本は現在形、挿話は過去形という色分けの中に点在する、英国らしい警句調の会話群。「あなたが犯している間違いは、幸せを求めていることなの。求めなければいけないのは、正しい不幸よ」「あんたはおれの狂気を癒してくれた、だがおれの人生は癒せない」とことん人間を対象化しおおせた絶妙な手法に喝采。

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