三浦俊彦による書評

★ 遠藤徹『姉飼』(角川書店)

* 出典:『読売新聞』2004年3月7日掲載

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 全体の風味がタイトルに凝縮された異形の小説だ。「蚊吸豚」で作った「脂神輿」が「飛脂様」を撒き散らす。その「脂祭り」で売られる、串刺しの「姉」らの絶叫。地域不明の土俗臭が、飼育者のサイコな不条理感と混じりあう。
 モンスター映画等サブカルチャーの篤実な研究を発表してきた英文学者が一転、第10回日本ホラー小説大賞で小説家デビュー。『溶解論』『ポスト・ヒューマン・ボディーズ』といったこれまでの評論の明らかな延長上にありながらなお意表をつく生理的嫌悪の陶酔感覚は、著者独特の妄想空間の奥深さを物語っている。
 SFメルヘン調の二編を、受賞作「姉飼」と末尾「妹の島」が血糊肉塊の毒々しいイメージで前後から挟む。計四編、乾いた皮膚を粘液まみれの内臓でくるんだような、人体を裏返したような配列が、日常風景の反転そのものの作品世界をこれまたうまく形象化した。普通のホラーでは飽き足らぬ、アート系の喉越しを楽しみたい読者向け。

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