三浦俊彦「アドホック日記」(2003年7月13日)- 我が小宇宙のコモド

  
日記索引


 警察に届けるなど全く考えずしょうがねえやと諦めつつ、駅前交番前を通った時ふと腹が立ってきて「これこれこういう次第で、夜中のピンポンダッシュもあったりするので時々パトロールしてください」て言ってきたら、帰ってしばらくして警官一人と刑事二人の訪問。風呂場の窓調べたり足跡調べたりいろいろ。日本の警察は敏捷かつマメだなあ。ちょっとしたことで重大事件が解決したりしますんで、って。そりゃそうだ頼もしいですねェ。被害届のこと考えてなかった私はゆうべも風呂に入ってしまい現場保存度ゼロ。とまあいろいろ検分してもらい被害届作成となり、住人在宅のとき忍び込むのは「居空き」といって空き巣より重罪であることも知り。
 しかしナメられたもんだな。盗られた九万円より、こっちが居るときに忍び込みやがったのが腹立つな(いないと思ったのかもしれんが)。
 まあこのことはいずれ論理学的に分析します。今は時間がないので。
 訴訟だの居空きだのろくなことのないこの頃だが、居空きから2日経った12日昼頃、かなりいい光景を見た。
 自転車置いてあるコンクリ空間に無雑作に置いてあるダンボールの陰で、がさガサッ、と音。コンクリ壁とダンボールの隙間を覗き込むと、ヤモリが――昼も夜もその隙間を定位置にしている大柄なヤモリ――あぐっ、あぐっ、さかんに飲み下そうとしている模様。大物を捕らえたらしい。あぐあぐは全身動かしながらの大ジェスチャーだ。獲物の正体を見るためヤモリをつかみあげ検分してみたい欲求に駆られたが、せっかく生きる実感を極楽モードで味わい中のヤモリを嚇かしちゃワルいヤ、とこらえてじっと目を凝らすも隙間は薄暗し。
 そのうちに、ヤモリはなかなか飲み込めなくて困ったか、口からはみ出した獲物を左右に振り回すというか、ほらよくオオトカゲがコブラと戦ってついにコブラをぱくっとくわえて左右にバシバシ地面に叩きつけるあの仕草あるでしょう、あれ風に、四肢ふんばってダンボール表面に獲物をなすりつけている。大きく左右斜めにクビ振る動きがコモドオオトカゲなみに獰猛で可愛いなあ! しかしなすりつけられるたびジャッ、ジャッ、ダンボール表面をこするというか引っ掻く音は、この獲物、よほど堅い頭をしてるとみえる(お尻からくわえ込まれたと仮定して)。で、何度も何度もダンボールになすりつけた結果、ついにポロッ、とハミダシ部分がちぎれ落ちるのが見えて、ヤモリはやっと飲み込めたワイというように垂直面に腰落ち着けました。
 でもまだしばらく、ぱくっ、ぱくっと、すでに獲物は飲み下した空の口を開け閉めし続けるヤモリ。ノドがひくひくいつまでも動いてました。ホントよほどの大物だったようだ。何だったのだろう。ちょっと推測できないが……、何かの甲虫だろうか。そうなのだ。考えてみればヤモリにヒキガエルに、そういうのを見つけるはしから持ち帰ってこの庭に放している私だが、そのぶん、珍種系の大型昆虫が犠牲になっている可能性はあるのだな……。
 それにしても硬くダンボールこすってたのは何だったか。ゲジゲジの触覚か、ムカデの牙か、マメコガネの脚か。
 その近くに、といってもヤモリの視野のたぶん外に、約3センチに成長した鮮やかな緑色カマキリがゆらゆら揺れていたりもして、よい光景の日であったわ。泥ボーなどしやがる人間より、ひたすら生存に余念なき虫や爬虫類はほんと純粋でよいね。ま、ヤモリのあのコモドスタイル食事風景は九万円じゃとうてい買えないからまあヨシ、てか。