三浦俊彦「アドホック日記」(2002年7月18日) - 吉田秀彦対ホイス・グレイシー実現!

  
日記索引


 吉田秀彦がホイス・グレイシーと対戦する。
 スポーツ紙だけでなく『朝日新聞』にも出ていたから、間違いないのだろう。
 しかし大丈夫だろうか。
 というのは、吉田のことである。
 つまり、最近はみんなグレイシーを過小評価しているようだが、考えてもみていただきたい。初期アルティメット大会でホイス・グレイシーが無敵を誇っていた頃は、ルールは文字通り「何でもあり」だった。金的や髪つかみ、指折りさえOKだったのだ。お互い何をされるかわからない恐怖の中で戦う、その極度の緊張にやすやす耐え無傷で勝ち抜いてゆく精神力こそ実戦派グレイシーの驚異だったのだ。あの感激をみんなもう忘れたというのか? 誰もグレイシー柔術を「何でもあり」で破ることのできないまま、時節柄いろんな自主規制で――テレビとタイアップしたがゆえの流血シーン防止策など――頭突き禁止、肘打ち禁止、後頭部・脊椎攻撃禁止、フィンガーグローブ着用、寝技膠着はブレイクあり、うつ伏せに倒れた相手を蹴るな、なんだかんだと、バーリトゥードがすっかりスポーツになってしまった。こんな緊張感を失った試合状況で、「グレイシーはもはや最強ではない」などと言ってもらいたくないよ。私は、今でも、ほんとにナンデモアリで殺し合いをすればグレイシー柔術こそ圧倒的最強であろうと信じている。
 まったく、ちゃんと決着つけないくせに別の土俵に逃げといて「おれたちはホントは負けてない」って、そういう負け惜しみ言うやつ、世の中に多いですよね。しかも世間がそれを案外信じちゃうんですよ、露出の多いやつの言うことを。プロレスラーとかね。
 プライドグランプリではホイス・グレイシーは桜庭和志にノンストップ90分の死闘の末破れたが、あれは「何でもあり」ではなかった。あのルール下では、柔術家の誇りを貫いて柔術衣を着て裸の桜庭と戦ったホイスが圧倒的に不利に決まっていた。
 そこで吉田である。
 対ホイス戦が「何でもあり」に設定されることはありえないだろうが、互いに道衣を着て戦うことはまず間違いないだろう。するとどうなるか。吉田としては、総合格闘技デビューが道衣着用の相手なら願ってもないと思っているかもしれないが、それ以上にホイスにとって有利だろう。というか、いままでの不利が解消されるだろう。なにせ柔道ルールに設定されることは「何でもあり」以上にありえないのだから、ホイスが吉田を完全にコントロールする可能性が高い。グレイシーをなめてはいけない!
 吉田秀彦は天下のオリンピック柔道金メダリストである。その名声を賭ける相手として、ホイス・グレイシーは難敵すぎるのではないか。吉田は、総合格闘技デビューはもっとやさしい相手、そう、K-1出身の打撃系格闘家あたりとやるのがよかったのではないか。
 私は、ホイスが勝つと思う。しかし、吉田も、いつぞやの全日本柔道選手権、金野潤との決勝戦では、脇固めで肘を負傷しながらの抗戦ぶりは実戦肌の面目躍如だった。魅せてくれるかもしれない。
 しかし私は、ホイスの勝利を願っている。義憤からそう願っている。みんな、不当にグレイシーを貶めようとしているからだ。誰もほんとにグレイシーに勝ったやつはいないのに。
 だからこそ、デビュー戦が対ホイス、という吉田のスタートを複雑な思いで見つめざるをえないのである。私も柔道黒帯、愛する唯一のスポーツが柔道ですからねェ。負けてほしくないですよ、吉田には。