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往復書簡 n.29 (1963.09.09)
『シュワイツァー研究』n.11(シュワイツァー日本友の会、1982年9月)pp.56-57.

一九六三年九月九日
バートランド・ラッセル

 親愛なるシュワイツァー博士、
 私はソ連のユダヤ人のためにフルシチョフ氏へのアピールを同封しましたが、これに署名をお願いするためペンをとりました。
 あなたはたぶん、スターリンの晩年におけるソ連のユダヤ系少数民族の最大限の虐待を世界が知って以来、ユダヤ人の状況が自由主義的進歩論者にとって、いや共産主義の見解にとっても、深い懸念の一因であったことをご存じでしょう。
 それ以後たしかにユダヤ人の個人としての地位にいくらか改善がありましたが、しかしユダヤ文化の不十分な回復は、ソ連邦内の他のどの民族のグループよりもユダヤ人の民族性を貧弱にしてしまいました。かれらはまたソ連の他の宗教的グループよりも多くの苦難と損失をこうむっており、しばしば粗野な攻撃、いわゆる無神論者の宣伝の目標となっています。さらに加えて重大な懸念は、経済上の違法のゆえに処刑された者のなかに圧倒的に多数のユダヤ人があり、そのような事件の報道にはユダヤ人全体に対する不信を反映するような傾向があることです。
 これらは善意の人々の良心を圧する事柄です。そして私はあなたが事態改善の努力によろこんで加わって下さることを望んでいます。改善する見込みは、ソ連と合衆国の間の核実験禁止協定の結果に伴っておこった東西関係のかなりの改善によっても、ソ連自身における進歩的意見によっても、かなり助長されています。

  敬 具  バートランド・ラッセル

 これは同文手紙(注:同じ文面で多数に発送した手紙) であるらしく、タイプで打った「親愛なる」のつぎに、ラッセル以外の者の手によって「シュワィツェル博士」と書き入れてある。