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バートランド・ラッセル『常識と核戦争』まえがき

* 出典:バートランド・ラッセル(著),飯島宗亨(訳)『常識と核戦争-原水爆戦争はいかにして防ぐか』(理想社,1959年5月. 138pp.)
* 原著:Common Sense and Nuclear Warfare, 1959

原著者まえがき

 この書物の目的は,共産主義諸国民にも,NATO(北大西洋条約機構)諸国民にも,また両陣営のどちらにもくみしない諸国民にも,ひとしく受け入れられるようなやりかたで,平和を達成するには,どういう手段がありうるかを示すことです。これから述べる文章のうちでは,どちらかの陣営に偏るきらいのある言葉は,ひとこともないようにしたいと,私はそう思っています。東西両陣営の政治的,経済的体制の功罪について,私がどういう見解をもっているかは,これまで私がしばしば述べたことですが,しかしそのような争点にかんする見解がどうであろうと,核戦争の危険を論ずる段になると,まったく問題ではありません。ここで必要なものは,それこれの主義(イズム)に訴えることではなく,もっぱら常識に訴えるというその一事です。いまの私のように考える人々によって持ち出されるような種類の議論が,一方の陣営に,他方の陣営によりも,より多くアピールする,いいかえれば,左翼の見解に,保守的なものの見かたをする人々の見解によりも,より多くアピールすることになるなどというのは,まったくいわれのないことだと私は思います。この訴え(アピール)は,人類に向けられたものであって,そのようなものとして,これは人類の生存を望むすべての人々にむかってひとしくなされているのです。

Preface by Bertrand Russell

The aim of this book is to show possible means of achieving peace in ways which should be equally acceptable to Communist Nations, to NATO Nations and to uncommitted Nations. It is my hope that there is no word in the following pages suggesting a bias towards either side. What my opinions are concerning the merits of Eastern and Western political and economic systems, I have often stated, but opinions on these issues are not relevant in discussion of the dangers of nuclear warfare. What is needed is not an appeal to this or that -ism, but only to common sense. I do not see any reason why the kind of arguments which are put forward by those who think as I do should appeal more to one side than to the other or to Left-Wing opinion more than to that of men of conservative outlook. The appeal is to human beings, as such, and is made equally to all who hope for human survival.