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バートランド・ラッセル『幸福論』序文

* 出典:バートランド・ラッセル(著),堀秀彦(訳)『幸福論』(角川文庫・白28-2:初版=1952年2月刊/改版=1970年刊、pp.1-155.)
* 原著: The Conquest of Happiness, 1930)
原著序文
Preface to The Conquest of Happiness, 1930
(右のイラストは、読書会案内状より)

 本書は、いわゆる学者先生たちに向かって、あるいはまたひとつの実際的問題を単におしゃべりのための材料ぐらいしか考えていないような人たちに向かって、書いたものではない。本書のなかにはいかなる深遠な哲学も、またいかなる深い学識も見出されないだろう。私はただ、常識(common sense)――であってほしいと願っている――によって示唆された若干の所見をまとめてみようとしたにすぎない。ここに読者諸君に向かって提供された幾つかの処方箋について私が言えることは、それらのものが私自身の経験と観察によって確かめられたものであるということ、そしてさらにそれらの処方箋がそれにしたがって行動した場合いままでのところいつでも私自身の幸福を増大せしめてくれた、ということだけである。
 そこでこのような理由に基づいて、私はあえてこう希望したい。不幸を楽しむどころか、不幸によって悩み苦しんでいる無数の男女のうちの幾人かが本書によって彼らの置かれている状況を診断し、そしてそれからの脱出法を示唆されたと観じてくれれば幸いである、と。
 私が本書を書いたのは、現在不幸のなかにある多くの人たちも、よい方向での努力をすれば幸福になることだできるだろうという信念に基づいたものである。
 

This book is not addressed to the learned. or to those who regard a practical problem merely as something to be talked about. No profound philosophy or deep erudition will be found in the following pages. I have aimed only at putting together some remarks which are inspired by what I hope is common sense. All that I claim for the recipes offered to the reader is that they are such as are confirmed by my own experience and observation, and that they have increased my own happiness whenever I have acted in accordance with them. On this ground I venture to hope that some among those multitudes of men and women who sufer unhappiness without enjoying it, may find their situation diagnosed and a method of escape suggested. It is in the belief that many people who are unhappy could become happy by well-directed effort that I have written this book.