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バートランド・ラッセル「魂の孤独と寂寥感_ラッセルの回心」

* 原著:The Autobiography of B. Russell, v.1(1967), chap. 6
* 出典:牧野力(編著)『ラッセル思想辞典』所収


 1901年(ラッセル29歳)のある日、ホワイトヘッド夫人(Evelyn Whitehead 右写真の女性)激痛の発作から死に直面する瞬間に私は立ち会った。(松下注:ラッセルは彼女の痛みをやわらげるようなことはなにもできず、無力感に襲われる。)突然、人間の魂の孤独に私はとらわれ、大地が足下から崩れさる思いを味わった。人間の魂の孤独、寂寥に耐えられない気持、聖者の強い愛以外人間の魂に触れるものは何もないという心情、また、この愛からほとばしるものでなければすべてが有害・無用となり、戦争(という手段で問題を解決しようとすること)はまちがっているという想いが強くなった。
 人々は互いに己の内なる孤独と寂寥の真髄に触れ合い、語り合うべきだと感得した。釈迦の願いにも似た深い望みで一杯になった。
 この五分間が過ぎた時、私はまったく別人になっていた。街頭の人々の胸の奥に共感しうる思いがした。
 第一次大戦中の反戦的態度には、この瞬間に感得した心情が心の底にあって、それが外に現れたものである。それ以後、人間関係において感動しやすい情的な傾向を私はもつようになった。
(Original text: She seemed cut off from everyone and everything by walls of agony, and the sense of the solititude of each human soul suddenly overwhelmed me. ... At the end of those five minutes, I had become a completely different person.)