(本館へ)  (トップへ)  (分館へ)

バートランド・ラッセルのポータルサイト


(語学テキスト)佐山栄太郎(編)『訳注ラッセル選』(南雲堂,1960年7月刊)pp.30-31. 目次
Envy and Jealousy
羨望と嫉妬
Next to worry probably one of the most potent*1 causes of unhappiness is envy. Envy is, I should say,*2 one of the most universal*3 and deep-seated*4 of human passions. It is very noticeable in children before they are a year old, and has to be treated with the most tender respect*5 by every educator. The very slightest*6 appearance of favouring one child at the expense of another*7 is instantly observed and resented.*8 Distributive justice,*9 absolute, rigid,*10 and unvarying,*11 must be observed*12 by anyone who has children to deal with.*13 But children are only slightly more open in their expressions*14 of envy, and of jealousy*15(which is a special form of envy), than are grown-up people. The emotion is just as prevalent*16 among adults as among children.
(From: The Conquest of Happiness, 1930)

【ヒント】
 人間の不幸の原因の一つに羨望(他人をうらやむこと)があり,これは人間には誰にもあるが,それが顕著に現われるのは幼児である。子供の養育にはこの羨望を起させないように極めて公平に扱うことを心掛けなければならない。これが大意である。

【語句】
*1 potent=powerful, strong, effective この potent は possible などと同じ語源で「出来る」という意味が根本にある。potential も「潜在的に力がある」というのが本来の意味。
2 I should say は「私に言わせれば」という気持で、多少控え目の気持を表わす。
*3 universal=belonging to all, general「一般的」「普遍的」
【語句】(続き)
*4 deep-seated 「根の深い」「根強い」で、病気とか感情とか原因などにつく修飾語である。deep-rooted もほぼ同じ意味である。
*5 with the most tender resect 「極めて細心に慎重に」
*6 very s1ightest の veryは強意。
*7 favouring one child at the expense of anothor「他方を犠牲にして一方を可愛がる」つまり普通の日本語なら「えこひいきする」ということ。at the expense の用例: He did it at the expense of his health (彼は健康を犠牲にしてそれをやった。) They laughed at his expense (彼等は彼をからかって笑った。)
*8 is observed and resented「観察され,憤慨される」
*9 distributive justice「みなに公平に分けられる正義,公正」
*10 rigid[riid]「厳正な」
*11 unvarying「(場合・事情などで)変らない」。
*12 be observed 「遵守される」 この observe と数行前に出た observe とは意味が違うことに注意。後者の「守る」方の名詞は observance であり,「観察」の方は observation であることもついでに覚えておく。
*13 to do deal with「取り扱うべき」 これは children を修飾する。
*14 be open in their expressions「表現においておおっぴら」 これは express 〜 openly と書き直して見る。
*15 jea1ousy [elsi] は括弧の中に注があるように羨望の特殊な形であるが,例えば人の成功を羨むのが envy で,自分の恋人がほかの人に心を寄せるのを心よく思わないのが jealousy である。
*16 preva1ent「行きわたっている」

【構文】
has to be treated の主語は文頭の It である。is instantly observed and resented は Active に直せば, another child instantly observs it and resents it となる。訳文に利用すればよい。absolute, rigid, and unvarying はいずれもすぐ前の justice を修飾している。than are grown-up people は than grown-up people are (open) の順序をかえた形。

【邦訳】
 心配についで,最も有力な不幸の原因の一つは、おそらく羨望(他人をうらやましく思うこと)であろう。羨望は人間の感情のうちで最も一般的で根強いものの一つであると私は言いたい。羨望は幼児が満一才にならないうちにもはっきり現われる。それですべての教育者はこの問題は極度に慎重細心に扱わなければならない。他の子供をさし置いて一人の子供を可愛がる様子が少しでもあれば、たちまちにそれを見抜いて憤慨するのである。子供を扱う者は誰でも,絶対的な,厳正な,いつも変ることのない,すべてに行きわたる公正というものを守らなければならない。しかし羨望と,(羨望の特殊な形である)嫉妬を顔かたちに現わす点では、子供の方が大人より僅か余計に露骨であるにすぎない。この感情は子供と同じ程度に大人にも一般にあるのだ。 (右イラスト:Russell's The Good Citizen's Alphabet, 1953状より)