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バートランド・ラッセル「善い生活と幸福な生活との関係」(語学テキスト)

* 原著:A good life and a happy life (ラッセル『変わりゆく世界への新しい希望』第一部第1章「現代の困惑」)
* 出典:佐山栄太郎(編)『訳注ラッセル選』(南雲堂,1960年7月刊)pp.16-17.


A good life and a happy life


善い生活と幸福な生活との関係


The good life, as I conceive it*1, is a happy life. I do not mean that if you are good you will be happy; I mean that if you are happy you will be good. Unhappiness is deeply implanted*2 in the souls of most of us. How many people we all know who go through life apparently gay*3, and who yet are perpetually*4 in search of*5 intoxication*6 whether of the Bacchic*7 kind or some other. The happy man does not desire intoxication. Nor does he envy his neighbour and therefore hate him. He can live the life of impulse*8 like a child, because happiness makes his impulses fruitful and not destructive. There are many men and women who imagine themselves emancipated from the shackles of ancient codes*9 but who, in fact, are emancipated only in the upper layers of their minds. Below these layers lies the sense of guilt*10 crouching like a wild beast waiting for moments of weakness or inattention, and growling venomous angers*11 which rise to the surface in strange distorted forms. Such people have the worst of both worlds. The feeling of guilt makes real happiness impossible for them, but the conscious rejection of old codes of behaviour makes them act perpetually in ways that feed the maw*12 of the ancient beast*13 beneath.
【ヒント】
 よい生活と幸福な生活とはどういう関係にあるか。ものに酔うことを求める人は概してどういう人か。衝動のままに生活することはよいことか,また幸福であるのか。旧弊の束縛を脱却したと思っている多くの人々も,実際は,果してそうであるか。

【語句】
*1 as I conceive it 「私がそれを考えるものとしては」つまり「私の考えているそれは」
*2 be implanted = be set deeply 「植えつけられる」
*3 apparent gay 「見たところは陽気な」 これは前の life を修飾する。
*4 perpetua11y = continually 「絶え間なく」
*5 be in search of 「~を求めている」 search を動詞として使う場合の普通の用法は、The police searched the village for the thief. (警官がその泥棒がいやしないかとその村を捜索した)。The detectives searched the prisoner for a hidden weapon.(刑事は囚人が兇器をかくしていやしないかと調べた)。
*6 intoxication 「酔うこと」「陶酔」
*7 the Bacchic [bkik] kind「酒類」 Bacchic は Bacchus[bks]の形容詞で,これは酒の神。
*8 life of impulse 「衝動の生活」
*9 shackles of ancient codes 「古い慣例の束縛」
*10 sense of guilt 「罪の意識」
*11 growling venomous angers 「有毒ないかりを口からはき出して」 このgrowling は waiting と並ぶもの。distorted「ゆがめられた」 codes of behaviour 「行動の捉」
*12 maw 「胃」(特に哺乳動物の)。
*13 ancient beast とは「罪悪感」のこと。


【構文】
How many people we all know ... これは感嘆文である。who go ... and who yet ... は共に people を修飾する形容詞節。
【邦訳】

 私の考えでは,善良な生活は幸福な生活である。諸君が善良であれば幸福であろうという意味ではない。諸君が幸福ならば善良であろうという意味なのだ。不幸はわれわれの多数のものの魂に深く刻みこまれている。外見は陽気な生活を送っているが、しかも絶えず、酒か何かほかの陶酔を求めてやまない人を、どんなに多く、われわれはみな知っていることだろう。幸福な人は陶酔を求めるものではない。また彼は隣人を羨み、従って隣人を憎むなんてことはしない。彼は子供のように衝動の生活を送ることが出来る。なぜなら、幸福は彼の衝動を生産的なものにし、決して破壊的なものにはしないからである。自分は古い慣例の束縛から解放されたと思っているが、実際は、彼らの心の皮相なところでだけ解放されている男女がたくさんある。そういう心の皮相の下には、罪の意識が野獣のように相手の弱る瞬間、うっかりしている瞬間を虎視たんたんと待ち、奇妙にゆがめられた形で表面にのぼって来る有毒ないかりを口からはき出して、うずくまっているのである。このような人たちは両方の世界の一番悪いところをもっている。罪の意識があるので真の幸福というものが掴めないし、古い行動の掟を意識的に拒否するもので(→意識的に拒否することによって),それがために奥にいる古い獣の胃の腑を養うようにいつも行動することになる。