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バートランド・ラッセル「(アリスとの)初婚」

* 原著: The Autobiography of Bertrand Russell, v.1(1967), chap.5
* 出典:牧野力(編)『ラッセル思想辞典』所収


 アリスと私は1894年12月13日、(クエーカー礼拝教会で)結婚した。彼女の家は、200年以上続いたフィラデルフィア・クエーカー教徒だった。・・・。
 当時の米国女性がそうであったように、アリスも性を不潔なものとみていた。男性の獣的な色欲が幸福な結婚生活の主な障害であるとの考え方で育てられていた。私達二人には婚前交渉はなかった。未経験者と同じで、初夜の営みは二人にとって困難であった。・・・。

 私たちは、結婚生活の始めの幾年かは外国を多く見て回ろうと決めた。そこで1895年の最初の3カ月間をベルリンで過した。私はベルリン大学で主に経済学を研究し、(と同時に)母校の特別研究員の資格を得る学位論文(幾何学の基礎に関するもの)の研究を続けた。また、私たちは週に3回コンサートにいったり、当時危険視され悪者扱いされた社会民主党員達と知り合いになった。

 この時期に、私に知的野心が湧いて来た。職業を持たずに、著述に専念しようと決心した。初春のある寒い晴天の日に、一人でティーアガルテン(ベルリンにある210ヘクタールに及び大公園)を散歩しながら、将来の仕事の構想を練ったのを覚えている。純粋数学から生理学に及ぶ科学の哲学に関する一連の著作と、社会間題に関する一連の著作を執筆しようと考えた。私は、両者を最終的には、科学的であると同時に実際的なものに総合しようと思った。この計画はへーゲルの考え方から大きなヒントを得ていた。・・・。
 私は1895年秋、(ケンブリッジ大学の)特別研究員(Fellow)に選ばれ、結婚初期の幾年かを数学と哲学の幅広い研究にあてた。私の生涯の中で、この頃は知的に最も実り多い時代であり、アリスに深い感謝を捧げねばならない。
 * 挿絵:ウェディングドレスを着たアリス(出典:R. Clark's Bertrand Russell and His World,1960)

During this time my intellectual ambitions were taking shape. I resolved not to adopt a profession, but to devote myself to writing. I remember a cold, bright day in early spring when I walked by myself in the Tiergarten, and made projects of future work. I thought that I would write one series of books on the philosophy of the sciences from pure mathematics to physiology, and another series of books on social questions. I hoped that the two series might ultimately meet in a synthesis at once scientific and practical.