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バートランド・ラッセル(Bertrand Russell)の著作からの抜粋

Has Man a Future? , 1961 (『人類に未来はあるか?』)から<

* この抜粋は、別宮貞則(著)『達人に挑戦-実況翻訳教室』(ちくま学芸文庫,2007年)のpp.44-54 に収録されたものです。著作権の関係がありますので、別宮氏の訳は松下訳に変更してあります。別宮氏の訳を見たい場合は、同書をご覧ください。
・別宮貞徳「刷数多きが故に貴からず(ラッセル著、日高訳『人類に未来はあるか』の誤訳指摘)」
Has Man a Future?, 1961
人類に未来はあるか

The most disquieting psychological feature of our time, and the one which affords the best argument for the necessity of some creed, however irrational, is the death wish. Everyone knows some primitive communities, brought suddenly into contact with white men, become listless, and finally die from mere absence of the will to live. In Western Europe, the new conditions of danger which exist are having something of the same effect. Facing facts is painful, and the way out is not clear. Nostalgia takes the place of energy directed towards the future. There is a tendency to shrug the shoulders and say, 'Oh well, if we are exterminated by hydrogen bombs, it will save a lot of trouble.' This is a tired and feeble reaction, like that of the late Rormans to the barbarians. It can only be met by courage, hope, and a reasoned optimism.

【松下訳】
 現代の'最も不安を感じさせる'心理的な特徴であり、また、いかに'不合理'であってもなんらかの信仰は必要だという主張に対して最有力の論拠(理由)を与えるもの(心理的特徴)は、'死への願望'である。周知のごとく、原始社会のなかには、突然白人と接触すると、気力を失い、ついには、生きる意欲の欠如だけで絶滅するものが時としてある。西欧に現在見られる新しい危機的状況(松下注:核兵器に覆われた世界/東西冷戦の時代)は、これと同じような結果をもたらしている。現実を直視することは苦痛であり、どのようにすればこの状況から逃れることができるか明らかではない。そこで未来に向けた活力の代わりに、昔を懐かしむ感情がとって代わることになる。肩をすぼめ、次のように言う風潮ががある。
「いや、いいじゃないか。水爆で人類が絶滅すれば、心配事がなくなるじゃないか」
 こういう疲労した、無気力な反応は、ローマ帝国末期の人々が蛮族に対してとった反応と同じである。これには、勇気、希望、及び理性に基づく楽観主義をもって対処するしかない。
[メモ]
・合理と不合理
・'合理的(rational)'の反対は、非合理というより'合理的でない'(irrational)
・不合理:理屈に合わないこと/矛盾がつきまとい理解しがたいこと
・非合理:理屈で説明できないもののこと(科学や論理では説明できない事実)→非合理主義とは言うが、不合理主義とは言わない。(不合理主義は困る。)