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バートランド・ラッセル「義務教育(の功禍)」

* 原著:Sceptical Essays, 1928, chap.14.
* 出典:牧野力(編)『ラッセル思想辞典


 義務教育を生む動機はいろいろあった。(義務教育制度化前夜の)義務教育の主唱者は、国民大衆が読み書きできることが望ましく、無知な国民は文明国の恥であり、民主主義は教育がなくては不可能だという気持ちに動かされていた。その後まもなく、教育は商業にも便益を与え、少年少女の犯罪を減らし、スラム街の住民をまとめあげる機会を与えてくれることが分った。・・・。
 ひと度この制度が確立されると、義務教育が多くの効用を持っていることがわかり、しだいに国家教育に偏向が現れるようになってきた。(松下注:戦前の日本や現在の北朝鮮による国家教育だけでなく、第2次大戦前は大部分の国において・・・。)
 若者に現存制度を尊重するように、また、当局者に対する根本的な批判は避けよと教え、母国への優越感を抱かせ、国際協調と個人尊重の双方を犠牲にした。・・・。権威を不当に強調し、個性伸張を妨げ、集団感情を助長させ、広まる政府への批判を厳しくおさえこんだ。画一性は、精神的萎縮によってしか得られないという事実があるにもかかわらず、為政者に好都合だという理由から望ましいものとされた。その結果として生ずる弊害は非常に大きく、義務教育が結局今日(松下注:第2次世界大戦前夜/本書の出版は1928年)までのところ人類のためになっているのかなってないのか、本気で疑ってもよいほどである。
* 挿絵: From Russell's The Good Citizen's Alphabet, 1953.)

This institution, once firmly established, was found by the State to be capable of many uses. ... Acordingly, State education has acquired a certain bias. ...
 Uniformity is desired because it is convenient to the administrator, regardless of the fact that it can only be secured by mental atrophy. So great are the resulting evils that it can be seriously questioned whether universal education has hitheto done good or harm on the balance.