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エリオットに会うチャンス(?)(『拝啓バートランド・ラッセル様』より)

* 原著:R.カスリルズ、B.フェインベルグ(編著),日高一輝(訳)『拝啓バートランド・ラッセル様_市民との往復書簡集』

目次


拝啓 バートランド・ラッセル様 

 ・・・。私があなたに手紙をさしあげるのは、故 T.S.エリオット(1888-1965.01.04:イギリスの詩人、劇作家)について一、二、質問をさせていただきたいためです。
 T.S.エリオットが随分前にハーヴァード大学であなたの教え子であり、後にロンドンにおいて、あなたは彼を多くの人に紹介されたことを、私は存じ上げています。(注:日高氏は、years ago を「少し前に」と誤訳されている。)
 ・・・。彼に関する何らかの逸話か情報をお聞かせいただけないでしょうか。彼の友人たちは全て、彼は「善と道徳の'縮図'」であったと考えているように思われます。しかし私には、彼の著作は驚くべき'狭量さ'と'不寛容さ'とを示しているように思われます。・・・。

ラッセルからの返事・1965年3月9日付=ラッセル93歳)

拝復 ゴーニン様


ラッセル英単語・熟語1500
 エリオットの性格についてのあなたの評価に、私は、全面的に賛成です。
 私が初めて彼を知ったのは、1914年の春、私が(ハーヴァード大学の)大学院のクラスで講義をしているときで、彼はそのクラスのメンバーでした。私がたまたまヘラクレイトスを讃美すると言ったことに対し、彼は、「そうです。彼はヴィヨン(Francois Villon, 1431?-1463?:15世紀フランスの詩人)と同じです・・・」と夢見るような調子で答えました。それは、(講義を行った)その三ケ月間に、彼が私に言った唯一の発言でした。しかし、第一次世界大戦が始まった直後の(1914年)十月に、ロンドンで偶然に彼と再会したとき、私は彼が昔言ったこの言葉から彼のことを思い出しました。
 私は尋ねました。「やあ、君はここで何をしているのかね。」
 彼は答えました。「私は、今丁度ベルリンから戻ってきたところです。」
 私は言いました。「この戦争をどう思うかね」
 彼は言いました。「わかりません。ただし、私が平和主義者でないということはわかっています。」
 私は言いました。「そうですか。人々が殺されることについてあなたは気にしないのですね。現に人々が殺されつつあるのにね。」

 敬具 バートランド・ラッセル
(From: Dear Bertrand Russell; a selection of his correspondence with the general public, 1950 - 1968. Allen & Unwin, 1969.)