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「ホモ・インシピエンス――人間、この愚鈍なるもの」(拝啓バートランド・ラッセルより)

* 原著:R.カスリルズ、B.フェインベルグ(編),日高一輝(訳)『拝啓バートランド・ラッセル様_市民との往復書簡集』

目次

 '…人間がどのようなものであろうと(どのような残虐行為や愚行を行おうが)、動物より人間の方が、創造主(神)の寵愛を多く受けると、どうして人々は信じているのでしょうか…。"

ラッセルからの返事(1952年9月3日付)

拝復 Luehrs 様


ラッセル英単語・熟語1500
 神(God:唯一神)が動物よりも人間の方により多く関心をもっていると哲学者たちが考える唯一の理由は、哲学者が人間だからです。紀元前6世紀に生きていたクセノフォン(Xenophanes: ギリシアの哲学者、歴史家)は、この問題について言うべきことを全て言ってのけました。かれは次のように言っています。
「ホメロスやヘシオドスは、人間の間の恥ずべきこと、不名誉なこと、窃盗、姦通、相互の騙しあい、その他いっさい(の原因)を神のせいにした。…人間どもはこう考える。「神々(gods)」は人間と同じように子をこしらえ、着物を身につけ、人間と同じような声をだし、人間に似た形をしている。…よろしい。――もし、牛や馬あるいはライオンに手があり、その手で絵を描き、人間と同じように美術品を創作できるとしたら、馬は神々の形を馬に似せて描くだろうし、牛は牛に似せて描き、神々の身体は、馬や牛の幾つかの品種に似たものにするだろう。
 …エチオピア人は、神々を黒く、しし鼻にする。トラキア人(Thracians: バルカン半島東部にあった古代国家)は、かれらの神々は青い目と赤い髪をもっていると言う。」
 HOMO SAPIENCE(人類:知恵あるもの)ということばは、クセノフォンの時代にはまだ発明されていませんでした。もし発明されていたとしたら、かれはそれを、HOMO INSIPIENCE(人間、この愚鈍なるもの)という語に変えるよう提案したでしょう。そうしたらわたしはそれを真心こめて支持したでしょう。
 敬 具 バートランド・ラッセル
(松下注:挿絵は、B. Russell's The Good Citizen's Alphabet, 1953 より

"... Why do men believe that a human being, whatever he is, is more in the favour of a creater, ... than an animal?"
Dear Mr Luehrs, (Sept. 3,1952)
"The only reason that philosophers think God is more interested in men than in animals is that philosophers are men. ... "
(From: Dear Bertrand Russell; a selection of his correspondence with the general public, 1950 - 1968. Allen & Unwin, 1969.)