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バートランド・ラッセル 私の哲学の発展 第12章(松下彰良 訳) - My Philosophical Development, 1959

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第12章 意識と経験 n.9 - 感覚と知覚の違い

「感覚」と対置される「知覚」は、過去の経験にもとづいた習慣を含んでいる。 「知覚」と区別して「感覚」を、経験全体のうち、過去の歴史から独立に現在の刺戟のみによって生ずるところの部分である、と言うことができる。こういう意味の感覚が、出来事全体について理論上認めなけならない核(中核)なのである。 出来事全体は常に、感覚的な核に、習慣をふくむ追加が加わって成り立ったところの ひとつの解釈なのである。犬を見る場合、感覚的核は、それを犬と認めるに必要な付加物をすべてはぎとられた、一片の色である。その一片の色が、犬に特有な動き方をすることを我々は期待し、 それが音を出すときは吠えるか唸るかし、雄鶏(おんどり)のようにときをつくらないことをわれわれは期待する。我々は、それが手で触れうるものであり、大気の中へ消えてなくなることはなく、未来と過去とをもつものであることを、確信している。これらすべての期待や確信が「意識的」なものである と言っているのではないが、それらが存在することは、その期待や確信どおりに事が運ばなかったとしたとき、我々の感ずる驚愕によって、明らかに示されている。感覚を知覚に変えるのはこれらの付加物であり、これらがまた、知覚をしてる場合には我々を誤まるものたらしめるのである。
. ウォルト・ディズニーによって我々は 「本当の」犬を見ていると思いこませられるかも知れないが、その犬は 雄鶏の鳴き声をしたり消えてしまったりして、我々を驚かす。 けれども、我々の期待は経験の結果なのであるから、それが通常起るところのこと -- ただし自然の諸法則は不変であると想定して-- を表現するより他ないことは明らかである。

* 野田氏は次のような訳注を挿入している。
「これまで「注意」と訳したのは noticing であったがここでは attention(注目)と言われている。 attention J いうとき注意の能動性を強調しているように見えるほか、両者に大した区別を設けていないから、同じ訳語 をあてておく。(訳者)

Chapter 12: Consciousness and Experience , n.9

'Perception' as opposed to 'sensation' involves habit based upon past experience. We may distinguish sensation as that part of our total experience which is due to the stimulus alone, independently of past history. This is a theoretical core in the total occurrence. The total occurrence is always an interpretation in which the sensational core has accretions embodying habits. When you see a dog, the sensational core is a patch of colour stripped of all the adjuncts involved in recognizing it as a dog. You expect the patch of colour to move in the way that is characteristic of dogs, you expect that if it makes a noise it will bark or growl, and not crow like a cock. You are convinced that it could be touched and that it will not vanish into thin air, but has a future and a past. I do not mean that all this is 'conscious', but its presence is shown by the astonishment that you would feel if things worked out otherwise. It is these accretions that turn a sensation into a perception, and it is these, also, that make perception possibly misleading. Walt Disney might lead you to suppose that you were seeing a 'real' dog, and it might astonish you by crowing or vanishing. Since, however, your expectations are the result of experience, it is clear that they must represent what usually happens -- always assuming that the laws of nature are constant.
(掲載日:2021.11.01/更新日: )