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バートランド・ラッセル 私の哲学の発展 第3章 (松下 訳)- My Philosophical Development, 1959, by Bertrand Russell

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第3章 最初の努力 n.6 - 進化論 対 神の奇跡

(ラッセルの15~16歳の時の鍵付き日記帳から)
<1888年4月14日>

 けれども,人間は不死自由意志も魂も持っていないという説、要するに(in short)人間巧みに作られた一種の機械意識を与えられたものであるという説に関しては(in the way of ~の点については)大きな困難がいろいろ存在している。というのは,意識は、それ自体、人間を無生物からはっきり区別する一つの性質であり、そうして,もし人間がこのように無生物とは異なったひとつのものをもつのならば、何故,もう一つの,自由意志を持たないのだろうか? 自由意志によって私の意味することは、人間は、たとえば、運動の第一法則に従わないということであり、あるいは少なくとも,人間の持っているエネルギーが使用される(用いられる)方向は全く外部環境によってのみ決定されるのではないということである。さらにまた、人間が,つまり理性や宇宙に関する知識や正邪の観念をもつところの、偉大な人間が、(また)様々な感情,つまり愛や憎悪といった感情、それから宗教を持つところの人間が、単なる朽ちやすい化合物(化学的な合成物)であり、その性質や善悪に対する影響力が、ただ単に,また全く脳の分子の特殊な運動に依存しており、従ってすべての偉大な人々は、どれか一つの分子が他の分子に衝突する回数が他の人々においてよりも少し多い(oftener)ということによって偉大であった,などと考えることは不可能なように思われる。こういうことは全く信じられないことであり、そういう馬鹿げたことを信ずる人は気が狂っているのではないか(← いかなる人も気が狂っていないというのか?) しかし,この説に代るものとしていかなる説があるのだろうか? 実際上証明されているといってよい進化論を受けいれるとすると、あの猿たちが徐々に知能を増して行っている時に、神は(どういうわけか)突然奇跡によって我々人類がどのようにして持ついたったか知らないところのあの驚くべき理性を一頭(一匹)の猿に与えた(という説)。その場合、人間は本当に神の素晴らしい作品と呼ばれてよいのか? また、人間は、非情に長い年月を進化に費やした後に完全に滅び去る運命にあるのか? それは我々人間にはわからない。しかし、私としては、このように神が人間を作り出すのに奇蹟を必要とし、そうして,現在は、人間に自分の好むところを自由にさせていると考えるよりも、そういった考え(人間は不死も自由意志も魂も持っていないという説)の方がよいと思う。

Chapter : First Efforts, n.6

(From Russell's Diaries]
Eighteen eighty-eight. Apr. 14th

Yet there are great difficulties in the way of the doctrine that man has not immortality nor free will nor a soul, in short that he is nothing more than a species of ingenious machine endowed with consciousness. For consciousness, in itself, is a quality quite distinguishing men from dead matter, and if they have one thing different from dead matter why not another, free will.? By free will I mean that they do not, for example, obey the first law of motion, or at least that the direction in which the energy they contain is employed depends not entirely on external circumstances. Moreover, it seems impossible to imagine that man, the great Man, with his reason, his knowledge of the universe and his ideas of right and wrong, Man with his emotions, his love and hate, and his religion, that this Man should be a mere perishable chemical compound, whose character and his influence for good or for evil depends solely and entirely on the particular motions of the molecules of his brain and that all the greatest men have been great by reason of some one molecule hitting up against some other a little oftener than in other men! Does not this seem utterly incredible, and must not any one be mad who believes in such an absurdity? But what is the alternative.? That, accepting the evolution theory which is practically proved, apes having gradually increased in intelligence, God suddenly by a miracle endowed one with that wonderful reason which it is a mystery how we possess. Then is man, truly called the glorious Work of God, is man destined to perish utterly after he has been so many ages in evolving.? We cannot say, but I prefer that idea to God's having needed a miracle to produce man and now leaving him free to do as he likes.
(掲載日:2019.05.20/更新日:)