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(朝日新聞「天声人語」より)
索 引


『朝日新聞』1961.9.14 荒垣秀雄「ラッセルの'罪'」


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 89歳(1961年当時)の高齢ながら、戦争絶滅と核兵器反対に情熱を燃やし、いつも平和行進の先頭に立っている英国の哲学者バートランド・ラッセル卿は、ロンドンの中央警察裁判所で夫人とともに七日間の禁固刑を言い渡された。「生存のための百人委員会」の指導者として、次の日曜日、ロンドン都心で1万人の核兵器反対デモを行うことになっているが、「不服従運動をやめよ」との判事の勧告を拒否し、「治安を乱す扇動者」として罪に問われたものだ。
 ラッセル翁はオルダーマストン平和行進にも銀髪をなびかせてよく先頭に立つ。今年2月英国がポラリス基地を米国に提供するのに抗議し、4千人のデモ隊とともに国防省前の冷たい歩道にすわり込んで、大衆に感銘を与えた。[右写真(1961.2.18の座り込み)出典:『ラッセル』(河出書房新社,1945/世界の大思想v.26;新装版v.38)p.383/百人委員会委員だった日高一輝氏提供の写真か?]
 彼は'英知なき科学'は、人類、地球、宇宙を滅ぼすという。科学はいまに月を打ちくだき、火星や金星をも科学兵部隊が占領して発射基地にしかねない。狂気が世界にひろがり、地球は急速に破滅に向かいつつあるという。またいわく。世界が全然なくなるより、狂人が支配しても世界が残った方がよい。人類が残っておれば、気違いの政府をも改善する望みがあるからだ。宇宙旅行が可能かということより、人間は今後も地球の上に生きていかれるかが問題だという。
 1955年、故アインシュタイン博士とともにラッセル翁は世界じゅうの第一級の科学者に呼びかけて「パグウォッシュの国際科学者会議」を創設した。人類を破滅に導く核兵器と戦争を防止するために、科学を平和のみに奉仕させるのがねらいである。
 7日間の禁固を言い渡されたラッセル翁は法廷で判事にむかい「あなたが私を有罪とするなら、それはわれわれの主張を助け、従って人類を助けることになる(注:言うまでもなく、宣伝になるため)。生きている限り、人類最大の災厄を防ぐ運動をやめない」と述べた。この投獄によって核反対運動が世界的にいっそう燃えひろがることを信じたからだろう。
 ソ連はすでに7回の核実験をやり、米国も近く再開する。「(味方を)一人を殺せば殺人罪、(敵を)百万人を殺せば英雄」との痛切な皮肉がある。核兵器反対の老平和主義者が'禁固7日'で、死の灰をばらまく張本人が罪なき英雄といえるだろうか。