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(朝日新聞「天声人語」より)
索 引


『朝日新聞』1955.7.12 荒垣秀雄「ラッセル博士らの訴え」


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 バートランド・ラッセル博士はいま八十三歳(1955年時点)。アインシュタイン博士はこの春七十六歳で死んだ。その死の少し前にこの二人の年老いた哲学者と科学者が手紙で何ごとかを相談していた。
 それがこんどの「核兵器戦争による人類絶滅」の警告で、四巨頭会談を前に劇的効果をねらって発表(右写真:各国記者団の前で「声明を読み上げているラッセル」)されたものと思われる。その内容はアインシュタインの遺言として伝えられ、ラッセル博士も従来しばしば書いていたことだが、湯川博士らを含む世界的科学者たちの署名を連ねて、米・英・ソ・仏・中共・カナダの六大国の大統領・首相に送られ、実行運動にふみこんだ点で大きな反響を呼んでいる。
 【ラッセル=アインシュタイン宣言全文-対訳版】  この勧告決議は、原水爆兵器の禁止だけでは駄目なことを強く指摘している。平和な時に水爆使用禁止の取りきめをしても、戦争が始まればそんなものはもはや拘束力を失い、使用することは明らかだ。水爆を使った方が勝つにきまっているからだという。
 ビキニの実験によってみても、水爆戦争の惨害は単に大都市を破壊するというくらいのものでなく、死の放射能がどこまで破滅を拡げてゆくか、子や孫にまでどれだけ及ぶか、はっきりしたことはだれも知らないが、「最も多くを知っている者が最も暗い見通しをもっている」との声明(ラッセル=アインシュタイン声明)に、七人の偉大な科学者が署名している。
 「数えきれないほど長い年月の間、太陽は上っては沈み、月は満ちては欠け、星は夜空に輝いてきた。しかしこれらのことが理解されたのも人類の出現によってであった」とラッセル博士は書いたことがある。芸術、文学、宗教、科学における崇高な仕事によっても、人類は自ら存続に値するものとしている。それなのに愚劣な恐怖のうちに人類を滅亡させるほど、人類は知恵なしで盲目で公平な愛情のもてないものであろうか、と書いた。そしてこんどの警告文の最後にも「われわれは人間として人間に訴える」と結んでいる。
 一人の人間として、存続に不安を感じている人類の一人として、生物学的人類の一員として、ラッセル博士らの署名者は訴えている。この警告文は六大国首脳の「意見の公表」を希望しているが、果たしてどこまで人間的な返事が得られるだろうか。