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「文明、画一化、米国(滞在中)のバートランド・ラッセル」

* 出典:『朝日新聞』1976.07.01?「天声人語」
索 引

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・もう40年以上も昔の話だが、英国の哲学者バートランド・ラッセルがアメリカの旅で長距離列車に乗った時のことだ。列車は広大な平原をひた走ってゆく。ラッセルは読書にふけろうとするが、車内の拡声器がせっけんのCMをがなりたて続けるのにうんざりする。ついにCMにまけて本を閉じる。
・すると隣の老農夫が「今日はどこへ行っても文明から逃れることはできませんよ」と慰めるのだ。今の日本ならさしずめ「どこへ行っても車文明から逃れることはできませんよ」という所だろう。ラッセルは、列車のCMから思いをめぐらし、文明が人間のものの考え方まで画一的な型にはめてしまうことの危険を鋭敏に感じ取っている。(右イラスト出典:B. Russell's The Good Citizen's Alphabet, 1953.

・長野県の国定公園を突っ切るビーナス・ライン美ヶ原線の建設を環境庁が認めようとしている。5年前、当時の大石長官が中止させた道路建設が再燃したわけで、「便利な観光道路の開発は善である」という型にはまった考え方がいかに根強いかがこの問題でもよくわかる。
・数年前、晩夏の美ヶ原を歩き回ったことがある。八島湿原あたりで高原の風に咲き乱れるマツムシソウやミズギボウシをながめていたら、観光バスの一群がどやどやと近づき、ガイドの説明が終わると、せきたてられるようにして去っていった。便利なバスの旅というのも恐ろしく不便なものだな、という印象が残った。便利さは必ずしも善ではない。

ラッセル関係電子書籍一覧
・ビーナス・ライン反対派に対し、地元の村民には「都会人におれたちの気持ちがわかるか」という意見もあるそうだ。そういう声は無視できないが、今回の動きの裏には過去の行きがかりがあるらしい。美ヶ原線の中止で既成ラインは袋小路となり、利用者が少ない。過去の工事費は赤字のままだ。赤字解消のためぜひ完成を、というのだが、これは「車文明から山を守ろう」という自然保護派に対してあまり説得力がない。
・環境庁はきょう環境保全審議会に諮問するが、審議会がここでもし安易に賛成したりすれば審議会隠れ蓑説がまたやかましくなるだろう。//