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『朝日新聞』1984.12.06付「天声人語」
索 引


五月の黄金週間(ゴールデン・ウィーク)にはもっと盛大に休もう、と労働省が呼びかけている。
・月曜と水曜が祝日の場合、ええい火曜日も、といって休んでしまうことを、イタリア人はポンテ(橋)というそうだ。なるほど、飛び石の間に橋をかけるわけか。労働省の呼びかけは、会社公認の橋をかけて黄金週間を大型連続休暇にしましょうということで、これが悪かろうはずがない。
・あまり人さまのことはいえないが、せっかくの年次有給休暇を消化しない人がけっこう多い。平均取得率は六割弱、という数字もあって、働き過ぎだと諸外国から非難される一因になっている。大型連休にせよ、時間外労働の抑止策にせよ、労働時間の短縮には賛成だ。

英国の哲学者バートランド・ラッセルが『怠惰への讃歌』(堀秀彦ら訳)を書いたのは半世紀以上も前(1935年)だが、その主張は今もみずみずしい。
・ラッセルの少年時代、労働者の公休日が法律で制定された。するとある老公爵夫人が言った。「貧乏人たちは休日をどうするつもりでしょう。彼らは働くべきです。」と。「労働者にひまを与えるな」というのが当時の上流階級の通念だった。
・ラッセルは、通念に反して、人はより少なく働き、より多くのひまを持つことで人生のすばらしいものを手に入れることができると主張した。より多くのひまを持てば、人びとはもっと親切になり、人を苦しめることも少なくなり、戦争したがる気持ちもなくなってしまうだろう、とものべた。「厭うべき」怠惰に積極的な価値を見いだした功績は大きい。

・五月連休の呼びかけについて、疑問が二つある。一つ。黄金週間に大型連休を集中させることはかえって、観光地や列車の過密度を高めるだろう。これからはむしろ、大型連休の時期を分散させる方向に向かうべきではないか。

・一つ。中小・零細企業の労働者との休日の格差をどうするか。ラッセルは「ひまの公平な分配」を説いた人だった。//