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今なお読書・執筆の毎日- 94歳のバートランド・ラッセル氏

* 出典:『朝日新聞』1966年7月12日(夕刊?)掲載
* 滞欧中の日高一輝氏(日本バートランド・ラッセル協会常任理事)からの報告<

電話中のバートランド・ラッセル  北ウェールズの閑居からロンドンへ出て来られて、さる(1966年)6月4日マハトマ・ガンジー・ホールで開催されたベトナム問題討論の大集会で演説したラッセル卿は、94歳を超えた老齢とも思えぬ元気さだった。一世紀にわたろうとする思想界の世界的巨峰ラッセル卿の、その情熱と生命力の秘密はどこにあるのであろうか。ロンドンのハスカー通りのラッセル邸で、側近からきいたラッセル卿の昨今は、・・・
朝、だいたい8時にラッセル卿は起床する。床につくのが深夜1時。毎夜おそくまで、読書されたり、執筆されたりしている。読書は最近は、インドや中国の哲学思想に関するもので、「仏教は宗教でなく哲学である」とももらしている。執筆は、当面する世界問題に関するアピール、メッセージ、ステートメントが主で、現在はベトナム問題に集中している。'自筆'と'口述'半々で、自分でタイプをたたかれることはない。
 食事は、すべて流動食。固形の物は一切とらない。近年、胃の一部が固くわん曲して、固形物を通さないからである。栄養食はすべてスープにしてとる。だが、三度の食卓には必ずウィスキーのビンがおかれて、気の向くままに朝からウィスキーをたしなむ。ラッセル卿の食事は、ウィスキーとスープ、そして75年間愛用している食後のパイプである。
 静かにクラシック音楽を聴き、時に、教訓的な物語を読んでおられるが、映画や演劇の鑑賞に行ったり、宴会やクラブに出かけられたりすることは一切ない。
 特別の健康法というものはべつにないが、ただ歩くことが好きで、ロンドンにあっては家の庭を歩く。ウェールズにあっては、よく丘や森や海岸を歩く。「この年になってはあまり歩けないが、むかしは日に25マイルも歩いたものだ」と自慢話をされる。そしていつも口癖のようにこういっている。

私は、意義がないと思うことは、話したくもないし、したくもない。論理(理屈)にあわないことは一切とりあわないことにしている。私が一番憎むのは狂信ということだ。

 ラッセル卿は、北ウェールズ(プラス・ペンリン)の本邸でこの夏を過ごされるはずである。